インプラント概論

薬剤耐性を作らないために

薬剤耐性を作らないために

 

第15回口腔機能再建インプラント研究会が東京秋葉原の三井記念病院でおこなわれました。

日本歯科大学口腔外科教授の松野智宣先生はAMR(antimicrobial resistance) について講演されました。

細菌に使用する抗微生物薬を抗菌薬(抗生物質と呼ばれることもあります)といいます。

抗微生物薬は微生物が増えるのをおさえたり、壊したりする薬です。

微生物に対して薬が効かなくなることを薬剤耐性と言います。

薬剤耐性は英語で Antimicrobial Resistance といい、AMRと略されます。微生物もいろいろな手段を使って、薬から逃げ延びようとするのです。抗菌薬が使用されると、抗菌薬の効く菌はいなくなり、AMRを持った細菌が生き残ります。

抗菌薬の不適切な使用はこれを助長します。

たとえば、風邪など抗菌薬が効かない感染症に使用するとAMR(antibacterial resistance)を増やすことになります。

抗菌薬は本当に必要なときに限って使うことが大切です。

歯科では抗菌薬は2つの状態の時に使用されます。

一つは細菌に感染して、腫れたり、赤くなったり、痛みが出ていたりする時に使用します。

もう一つは感染予防として使用する場合です。抜歯後やインプラント手術後などです。

松野教授は、抗菌薬の使用方法はこの二つでは違うことを力説されました。

皆さんも抜歯した後、抗菌薬を食後3日間投与されたことがあると思いますが、この投与方法は細菌感染が起きている場合での投与方法であり、感染予防のときには、手術1時間前の1回投与でよいとおっしゃっていました。

私たちは従来から感染した場合と感染予防としての抗菌薬の投与方法は同じであると考えていましたが、薬剤耐性を作らないために、投与方法を変えるべきであるということです。

日本ではセフェム系の抗菌薬が多く使用されています。

当院も15年前まではフロモックスやメイアクトなどの第3世代セフェム系を使用していましたが、どうも効き方に疑問を持ち、昔からあるペニシリン系のサワシリンを投薬したところ、劇的に化膿性炎症の改善を認めた患者さんに遭遇しました。

以後、第3世代セフェムはほとんど使うことがなくなり、第一選択としてサワシリンを使うようになりました。

歯科におけるくすりの使い方2019年度版(デンタルダイアモンド社)によると、第3世代セフェムは歯科口腔外科領域の感染症では使用が推奨されず、むしろ昔からある第一世代セフェムのセファレキシン(ケフレックス)を使用すべきだと述べられています。

正直びっくりしています。古すぎて効かないと思っていたのです。

おそらく、私と同じ考えの歯科医師は多いと思います。

 

結論を言うと、現在では、歯科口腔外科領域に最初に投与を検討する抗菌薬はサワシリン(アモキシシリン)であり、フロモックスやメイアクトは投与の意義がなくなっていると考えていいようです。

耐性菌が増加してきているのでしょう。

たとえば、風邪など抗生物質が効かない場合などに不適切に使用したことがAMRを助長したと思われます。

この見解も5年ぐらいで変わっているかもしれません。

岸本歯科では15年ぐらい前から、ファーストチョイスはアモキシシリン(サワシリン sawacillin)を使用してきましたが、抗生物質の効きを悪くするβラクタマーゼに対して阻害的に働くクラブラン酸を配合したアモキシシリン・クラブラン酸配合錠(オーグメンチン augmentin combination)を使用することもあります。

 

(2019年6月26日)

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